日本語仙人の難しい日本語

漢字の読み書き、常套句、ことわざや格言、間違えやすい言葉―。中・上級レベルの日本語を紹介。

順調な時こそ思い出したいことわざ5選

 過去に、「苦しい時に思い出したいことわざ」と題した記事を書きました。

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それなりに反響をいただいているようで、現在の人気記事トップ10にランクインしています。ありがとうございます。(何を以て人気としているのかは分かりません。アクセス数かな?)

 苦しい時に思い出したいことわざがあるなら、当然、”順調な時こそ思い出したいことわざ”もあるよなということで、今回はその5つを紹介したいと思います。

 

 

勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ)

物事が順調に進んでいる時こそ、気を引き締めろ。

”兜の緒”とは、兜が頭からずり落ちないようにあごの下で結ぶ紐のこと。

戦国時代、北条氏綱(ほうじょううじつな)が息子の氏康へ向けて遺したとされる『五か条の訓戒』の中の一節である。

戦いに勝利したからと兜を脱いでしまうと、不意を打つような反撃の矢が飛んでくるかもしれない。だから決して気を抜いてはいけない。

 

好事魔多し(こうじまおおし)

良い事にはとかく邪魔が入りやすいことのたとえ。

好事、魔、多し」と区切り、好事(良いこと)には、魔(妨げになる物)多し(数多い)ということ。

”好事魔”という妖怪の類がいるわけではない。(←いるかも。)

 

月に叢雲、花に風(つきにむらくも、はなにかぜ)

「好事魔多し」の類義語。物事はなかなか思うようにならないことのたとえ

月が綺麗だと眺めていたら、叢雲(群がった雲)に阻まれ、花が綺麗だと眺めていたら、風が吹いて散ってしまうものである。

 

盈満之咎(えいまんのとが・えいまんのとがめ)

満ち足りた時ほど災いを招きがちである。

盈満”とは、満ち足りること。同義の漢字が連なった強調二字熟語。

「満ちれば欠ける」のである。

よくオリンピック競技において、「トップに勝つことよりも、トップを保ち続ける方が困難である。」などというようなことをよく聞きますが、確かにそれはよくわかる気がします。

その頂点に立つ存在となった場合、周りから向けられる目も変わってきます。常に高パフォーマンスを維持しなければならないというプレッシャーもありますし、追随する者からひたすら逃げ続けることの精神的重圧は凄まじいものでしょう。

 

[関連語句]

盈月(えいげつ)・・・新月から満月になるまでの月。

虧月(きげつ)・・・満月から新月になるまでの月。

 

弘法にも筆の誤り(こうぼうにもふでのあやまり)

その道の名手でも、時には失敗する。

”弘法”とは、弘法大師・空海のこと。空海のような書の達人であっても、時には字を書き間違えることがあるということ。

これはある意味、順調な時こそ思い出したいことわざでもあるし、苦しい時に思い出したいことわざでもある。

「その道のプロでもしくじることがある。ましてや浅学菲才の自分においてをや。油断禁物。」と言えるし、「百戦錬磨のあの人だって敵わないことだってあるんだ。失敗して当然だよ。気にするな。」とも言える。

 

因みに、空海が書き間違えた字は「應」。

天皇の命を受け平安神宮の応天門に額字を書いたが、「應」の上のちょんが無いことを掲げた後に気づき、筆を放り投げて付け足したという伝説が元。

 

…登ったら良かったんじゃないの。

千丈の堤も蟻穴より崩る(せんじょうのつつみもぎけつよりくずる)

小さなほころびが元で大事件を引き起こすことがある。

一見堅固な土手でも、アリが空けた穴一つで崩壊することがあるということ。

喩えは建築物ですが、一つの不手際、怠慢、齟齬などによって重大な問題に発展する可能性があるという意味で、これは組織や個々の人間関係にも当てはまります。

一見大きな物事も、たった一つがきっかけでいとも簡単に崩れ去ってしまうという点で、前回記事の「見た目は良いが中身が伴わない」にも通ずるものがありますね。

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以上、「順調な時こそ思い出したいことわざ」でした。

 

ところで、「お前は調子に乗っている」などと言われた経験はあるでしょうか。

あれのほとんどは、劣等感や嫉妬の感情から来るものです。因縁をつけ相手を貶めて相対的に優位に立とうとしているだけです。気にしちゃあいけません。

「調子に乗る」とは言いますが、調子に乗るって文字通りの解釈をすれば、すごく良いことだとは思いますけどね。だって不調だと何もできやしないじゃないですか。

とはいえ、順調なことにいい気になり、態度が傲慢になったり、周りの人間を見下したりしていると、そのうち大顰蹙を買うことになりますが。

今自分が生きて何らかの活動ができているのも、必ず誰かの下支えがあるからこそです。その認識を持ち、いつも謙虚でありたいものです。