「お疲れ様です」と言うべき場面で、「お楽しみ様です」とか、「お元気様です」と挨拶をするように教育している企業があると聞きました。
過去に何度か言っておりますが、私はこういうブログを書いていながら日本語の誤用や間違い等にはかなり寛容なほうだと思っています。ただ、これは何だか納得できないというか、そのような奇妙な言葉は使いたくないという気になります。
おそらくこれを持ち込んだ人は、人一倍言霊みたいなのに敏感で、”お疲れ様”には、「疲れる」というネガティブな言葉があるから、前向きな言葉で置き換えようという思惑があったのでしょう。
しかし、本来「お疲れ様」というべきところを「お元気様」と言い換えたところで、まず違和感が生まれます。「お疲れ様」が禁止される抑圧意識と、その違和感とが相まって、殊更に疲労感が増してしまいそうな気がするのですが、どうなのでしょう。
さて今日は、「見た目は良いが中身が伴わない」を表す言葉。
「あの人、発言は立派なのに人間性に欠けるよね」「この映画、予告はすごかったのに、本編は期待外れだった」というように、この”見た目は良いが中身が伴わない”を表現する言葉は故事・ことわざにおいて多く存在します。
そのような表現が多く存在するということは、人生において多くの人が陥りがちで、そこから教訓にすべき事象がふんだんにあるということです。
意味もなく虚勢を張ったり、その場しのぎで後先考えない言動をとるというのは、古今東西世の常人の常だということですね。
- 虚仮威し(こけおどし)
- 蟷螂之斧(とうろうのおの)
- 沐猴にして冠す(もっこうにしてかんす)
- 独活の大木(うどのたいぼく)
- 黔驢之技(けんろのぎ)
- 羊頭を掲げて狗肉を売る(ようとうをかかげてくにくをうる)
虚仮威し(こけおどし)
見せかけで相手を納得させようとすること。
”虚仮(こけ)”とは、中身が空っぽで間が抜けていることを表す仏教用語。
よく物語などで、悪役が「コケにしやがって…!」などと主人公達を睨みつけるシーンがありますが、あの「コケ」です。
”虚仮”が含まれる言葉に、虚仮の一念岩をも通すというのがありますが、これは特別な才能を持たない人間でも、一つの事にひたむきに打ち込めば、やがて大きな成果を上げられるというたとえ。
”子供騙し”というのが近いでしょうか、子ども相手でないと騙せない様なレベルの低い仕掛けのことをいいます。
蟷螂之斧(とうろうのおの)
自分の力を過信し、実力以上のことをしようとするたとえ。
”蟷螂(とうろう)”はカマキリ。”斧”は鎌のようなカマキリの両前脚。
カマキリが威嚇する様子が、いかにも両腕に斧を携えているかのようだと揶揄する故事成語。
中国春秋時代、斉の荘行(そうこう)が狩りをしに馬車で移動している時、一匹のカマキリが馬車の車輪に対し威嚇しているのを見つけ、「こいつが人間だったら天下を取っていただろう」と、馬車を迂回させ道を譲った。『韓詩外伝(かんしがいでん)』
”身の程知らず”ということであるが、相手が誰であれ立ち向かう勇猛果敢な者という称賛の意味も少し含んでいるようだ。
沐猴にして冠す(もっこうにしてかんす)
見た目は立派だが、良識の無い人。
”沐猴(もっこう)”とはサル。サルが冠を被っているようであるということ。
大きな地位を得て立派に着飾ったところで、思慮分別に欠け粗暴で乱暴なその人の本質は何も変わらないというたとえ。
見た目が立派だからといって、中身がそれ相応だとは限らないのである。(=馬子にも衣装)
独活の大木(うどのたいぼく)
図体の割に役立たずな人。
”独活(うど)”はウコギ科タラノキ属の多年草。成長すると茎が太くなり高さは2mを超える。新芽は食用になるが、成長後は食すことができず、木材にするには茎が軟らかすぎる。
因みに、独活の”大木”と呼ばれるが、樹木ではなく草。
余談ですが私はかつての職場(すぐ辞めた)で、慣れない仕事中、やたらと態度だけはデカい小柄な先輩オヤジに「独活の大木」と言われたことがあります。
こっちは懸命に取り組んでいるのに、何も教えてくれない奴ができていないことばかりを取り上げてブツブツ言ってくるので当時はかなり苛立った記憶があります。
言葉の使い方はとくに間違っていなかったので、少しは教養のあるジジイだなとは思いましたが。
黔驢之技(けんろのぎ)
自分の実力を過信して痛い目を見ること。
”黔”は当時の中国の地名。”驢”はロバのこと。
虎は黔に放たれた大きなロバを初めは恐れたが、大した攻撃手段がないと見抜き、最終的には食い殺してしまった。という故事が元。
”黔”はここでは地名だが、黒いという意味も持つ漢字である。
黔を用いた熟語に「黔首(けんしゅ)」という熟語があるが、これは黒い頭、つまり人民のこと。
見慣れない複雑な漢字だと思うので、大きめのフォントで表示しておきます。
黔
羊頭を掲げて狗肉を売る(ようとうをかかげてくにくをうる)
外見と内実が一致しないこと。
羊頭狗肉(ようとうくにく)とも。
看板には羊の頭を掲げておきながら、狗(犬)の肉を売るというあくどい商売が元ネタ。もちろん、ここでは羊肉は高級品で、狗肉は粗悪品。
↓よく見かける謎のゲーム広告。これぞまさしく羊頭を掲げて狗肉を売っている例だ!!!
羊質虎皮(ようしつこひ)
実際は羊なのに、虎の皮を被っている。
つまり、見た目は立派だが、実質がそれに伴わない。
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以上、「見た目は良いが中身が伴わない」を表す言葉でした。
最後まで読んでいただき有難うございました。