漢検一級の問題集をちらと見て思いました。完全に趣味の世界だなと。
バラやコウモリが漢字で書けたり、魚偏の漢字が読めたりというのはまだまだ序の口で、本当に難しいのは、無限にあるのではないかと思うくらいの慣用表現(慣用句)だったり、輪廻転生のうちに一度たりとも使用機会が訪れない様な抽象的な意味の二字熟語だったりするのです。
いうなればシャッター通り。いや、それ通り越して宛(さなが)らゴーストタウンを訪れているかのような気分になりました。
ゴーストタウンならまだ良いかもしれない。人の住んだ形跡がなく、子供たちが秘密基地
…として候補にあげるかどうかのスペースがそこに、あるだけ。
故事成語だったらまだよいです。
なまじお偉いさんだったどこぞのおじんが、自分に影響力があるのをいいことに自己満足のためだけに作った熟語もきっと存在しているだろう。
…さて、今日はその無限にあるのではないかと思うくらいの慣用表現(慣用句)と二字熟語の中から幾つかを紹介してみます。
平仄が合わない(ひょうそくがあわない)
(物事の)帳尻が合わない。辻褄が合わない。順序立っていない。
”平仄”の読み方が難しいポイント。
そもそも平仄とは何じゃいということですが、漢詩における四声(しせい)のうち、
平声(ひょうしょう)を「平」
上声(じょうしょう)、去声(きょしょう)、入声(にっしょう)を「仄」
と言います。
漢詩にはいろいろと厳しいルールがありまして、この「平」と「仄」の組み合わせが美しくないと、作品としてのレベルが低くなってしまうそうです。
ピンインで示される現代中国語のあれも四声というそうですが、漢詩の「平仄」はまた違ったリズムなのだそう。予備知識が役に立たないのが口惜しいですね。
秀に出づ(ほにいづ)
擢(ぬき)んでて優れている。「秀づ(ひいづ)」とも。
…怪体(けったい)な読み方のが来ましたね。
”語学に秀でる”などと言ったときの「ひいでる」は現在でもよくつかわれていますが、元々は「穂に出づ(ほにいづ)」という形で、そこからどんどんと転化していったと言われています。
望外の喜び(ぼうがいのよろこび)
望んだ以上の喜び。
ここで分かりやすいのを緩衝材として一つ挟んでおきます。
辞書的に見れば、字面の通り望んだ以上の喜びがあった…、そこまでなのですが、どこか謙譲的な意味を含んだ言葉といえます。
将棋棋士の藤井聡太さんが対局後に、「望外」や「僥倖(ぎょうこう)」という言葉を用いてコメントをしたことが一時期話題になりました。
落魄(らくはく)
落ちぶれること。
元から負け組だったのではなく、以前は力のあったものが衰退したというバックグラウンドがある。「零落」という熟語に意味が近い。
落魄(おちぶ)れる 栄達落魄(えいたつらくはく)
辺鄙(へんぴ)
街から離れていて不便なこと。
「こんなへんぴなところに」の”へんぴ”です。聞いたことはあると思います。こういう字を書きます。
田舎に住んでいる人に「辺鄙な土地に住んでいるんですねえ!」というのは失礼にあたる場合もあるので、気を付けましょう。話し言葉では「僻地(へきち)」などと言った方がよさそうです。或いは「秘境」とか…。
鄙(ひな)びる・・・いかにも田舎っぽい、田舎風の。
「鄙」は「都」に対応する漢字。
さぐれば幾らでも初見の言葉が出てくる日本語の世界。
ゴーストタウンというより深海を覗いているのかもしれない。