落語において、本題と関連する冒頭の小話を「枕(まくら)」と呼びますが、この枕でいかに客の心を引き込めるかが噺家の実力が問われるところと言われています。
私もくだらない記事一つを書くのに、枕をどの様にしようかと苦心惨憺することがありましたが、考えてみたところで大した掴みもできないし、気の利いた仕込みができるわけでもありません。
「筆ならし」だとか調子のいい事を言ってる余裕もないので、特に凝らなくて良いという結論に至りました。
過去にどのようなことを書いていたのだろうかと記事を幾つか読み返したりもしたんですが、短い前置きで本題に行っていることもあれば、長たらしく書いているのもありました。
思いましたよ。「早く本題に行け」と。
今回は「枕」という漢字が含まれる熟語を紹介していきます。
比目之枕(ひもくのまくら)
男女が共寝をすること。また、夫婦仲が大変によいこと。
中国には、二匹揃わなければ泳ぐことができない比目魚(ひもくぎょ)という魚が伝説上存在する。”比目(ひもく)”とは目を並べること。つまり、目が二つ並んで初めて動ける持ちつ持たれつの関係のこと。(=比翼之鳥)
”比目之枕”は、寝るときは必ず二つの枕を並べることから、親密な関係を表す。
比翼之鳥(ひよくのとり)、連理之枝(れんりのえだ)など、夫婦仲が良いことを表す四字熟語をまとめた記事もありますので、良かったらこちらもご覧ください。↓
関連:
新枕(にいまくら)
男女が初めて共寝をすること。結婚初夜。
「新枕を交わす」という形で使われることが多い。
徒枕(あだまくら)
恋人と別れてひとり寂しく寝ること。また、その場限りの共寝。
ふたつの意味がありどちらかは文脈で判断するしかないが、どちらも”徒”=物足りなさがある。
歌枕(うたまくら)
古来多くの歌人によって和歌の題材として詠まれた定番の名所。
幾度も和歌に詠まれてきた土地には特定のイメージが共有され、立ち寄ったことが無い人でも、その地の情景やその地に踏み込んだ人々の感情の機微を連想することができる。
例えば、竜田川を実際に訪れたことは無いが、百人一首69番の ”嵐吹くみ室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり” という一首は知っているという人は、「竜田川は秋に風が強く吹く紅葉の名所なんだな」と思い浮かべられるわけです。
日本語仙人:歌枕と聞いてパッと浮かぶのは、宇治・住吉・隅田川とかかのう。
枕頭の書(ちんとうのしょ)
愛読書。
”枕頭”とは寝ている枕の付近。
つまり、いつも枕元においていて、寝る前によく読む本のこと。
そのような本の存在はその人の精神的支柱になっていることは間違いないでしょう。近年の”枕頭の書”は、スマホ上のSNSになってしまっている人が多いようですが…。
日本語仙人:「座右の銘」という言葉に似ている気がするのう。
邯鄲之枕(かんたんのまくら)
人生の栄枯盛衰のはかないことのたとえ。
沈既済(しんきせい)の『枕中記(ちんちゅうき)』に書かれた故事の一つ。
立身出世の為に邯鄲へ訪れた盧生(ろせい)は、立ち寄った宿で借りた枕で眠りに就いたところ、栄耀栄華を極めた後にやがて凋落するという栄枯盛衰の一生を夢で見た。ところが、その夢が覚めた頃には、注文した高粱(コウリャン)粥がまだ炊き上がらない僅かな時間しか経っていなかった。
「邯鄲之夢」「盧生之夢」「一炊之夢」など、様々な呼ばれ方をする。
草枕(くさまくら)
(草で編んだ枕という意から)旅先での貧しい宿り。
船上で寝ることを波枕(なみまくら)と言ったりもする。
「草枕」と聞いて初めに浮かぶのは、この熟語よりも夏目漱石の小説でしょう。
東京の喧騒を逃れ温泉地で画家としての在り方を模索する青年の物語…なのですが、若いころに読んでそれっきりですね。
難解な言葉が多く、読むのに苦慮した覚えがあります。再度読み直したい小説の一つです。
枕石漱流(ちんせきそうりゅう)
流れる川で口をすすぎ、石を枕にして眠るような俗世間から離れた隠居生活。
石(いし)に枕(まくら)し流(ながれ)れに漱(くちすす)ぐ。
漱石枕流(そうせきちんりゅう)
負け惜しみが強く、自分の失敗を認めない様子。
晋の孫楚(そんそ)が、”枕石漱流”と言いたかったのを、”石(いし)に漱(くちすす)ぎ流(なが)れに枕(まくら)す”と言ってしまい、それを指摘されたところ、「石に漱ぐのは歯を磨くためで、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と牽強付会も甚だしい屁理屈をこねたという故事が元。
因みに、夏目漱石というペンネームは、ここからとったとされています。
このブログを初めて間もない頃の記事です。懐かしいですね。
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「膝枕(ひざまくら)」はどういうものかよく知っているのですが、定義的には「腿枕(ももまくら)」だと思っていたんです。
だって「膝」って、腿と脛を繋ぐ関節部分のことを言うんじゃないのかって。
スポーツ選手が膝を怪我したと言えば、膝関節を痛めたということだし、子どもが膝を擦りむいたと言えば、誰だって膝小僧の部分を怪我したのだと考える。
ですが、「膝」は、座った状態の時は腿の前面も含まれるということでした。
言われてみれば、「犬が膝の上に乗ってきた」などといいますし、病院のベッドとかによく備え付けられているのも「膝上テーブル」と言うなあと。
ほおん。
…何処か釈然としないのですが、ある程度納得できたと思います。
日本語仙人:枕を高くして寝られそうか?
そうだな。
以上、「枕」が含まれる熟語でした。