日本語仙人の難しい日本語

漢字の読み書き、常套句、ことわざや格言、間違えやすい言葉―。中・上級レベルの日本語を紹介。

美を讃える言い回し(その2)

ちびまる子ちゃんの祖母の「こたけ」さんは、実は相当な美人という設定で、若いころは”清水小町”と呼ばれるほどだったそうです。

こたけさんの若いころとなると、大正時代になるでしょうか。

当時は西洋の文化が浸透し始め、かといって西洋に傾き過ぎることもなく、日本と西洋のファッションを融合させた「ハイカラ」と呼ばれる人たちが居ました。

ハイカラというのは、英語の”High collar(高い襟)”から派生したものですが、「ハイカラさん」といえば、どうしても袴を着た女性が浮かんできます。

若きこたけさんもそのイメージの「ハイカラさん」だったでしょうか。昔アニメでやっていたのを見たのですが、忘れてしまいました。

袴にブーツで髪型はマガレイト。あれ、とても好きです。(←知らんがな)

 

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今日は「美を讃える言い回し」の2つ目。前回(上)の続きでございます。

 

 

小町(こまち)

その地で評判の美しい娘。

そもそも”小町”とは平安時代の歌人小野小町(おののこまち)のこと。その小野小町が大変な美人だったため、評判の美しい女性のことを小町と呼ぶように。

多くは、その女性が住んでいる土地の名前を付けて「○○小町」という形で使う。

清水小町というと、静岡県清水市(現・清水区)で評判の美しい娘、ということになりますね。

「あきたこまち」という米の有名ブランドがありますが、当然これが由来。

今業平(いまなりひら)

現代の業平ともいうべき美男子

業平とは、小野小町と同じ平安時代の歌人在原業平(ありわらのなりひら)のことで、こちらは相当な美男子だったという。

”小町”ほど世には浸透していない表現ですが、同じように「○○(土地の名前)業平」という言い方があってもいいんじゃないかと思います。

まる子の祖父「友蔵」も、清水業平だったに違いないでしょう。

 

姥桜(うばざくら)

盛りを過ぎてもなお美しい女性。

姥桜”とは、葉よりも先に花を咲かせる桜の総称。

開花期に葉(歯)がないことが、まるで老婆のようであることからこの名がつけられた。

ただ、歯が無くても(=老いても)なお美しいことから、娘盛りを過ぎても美しい女性のことを表す言葉にもなった。

 

雪を欺く(ゆきをあざむく)

雪と見間違えるほどに白い。

主に女性の肌が白く美しいことを褒める表現。

実際のところはわかりませんが、色の白いは七難隠すなどと言われるように、肌の白いことは美女と呼ばれる条件の一つだったみたいです。

※「七難」とは、多くの欠点や難点のこと。正確に七つあるわけではない。

花も恥じらう

綺麗な花でさえも引け目を感じてしまうような若く美しい女性

中国四大美人の一人、楊貴妃(ようきひ)のエピソードが由来。

 

花一輪(はないちりん)

ひときわ目立つ一人の美しい女性。

「花」という言葉に抱きがちな可憐ではかなげな佇まいは勿論、他とは一線を画す絶対的な存在感がある様子。

 

…というもっともらしい語釈を書きましたが、家にある書物やインターネット等をあたってみても、これを美を讃える表現としている例は見つかりませんでした。

もしかすると私が勝手に作り出した表現で、もともとこんな使われ方なんてしないのかもしれない。

 

紅一点(こういってん)

多くの男性の中にいる唯一の女性。

元々は、凡庸な存在の中で、ひときわ異彩を放つ存在のこと。「鶏群の一鶴(けいぐんのいっかく)」や「泥中の蓮(でいちゅうのはす)」と類義語。

出典は王安石の詩『詠柘榴(ざくろをよむ)』の一句、”万緑叢中紅一点(ばんりょくそうちゅうこういってん)”。

一面に茂った草むらの中に、一輪の赤い花(ザクロの花)が咲いている様子を描写した言葉。

緑一点(りょくいってん)

なら男性の場合はどうなのかというと、私が推したいのはこれ。

男性の色は黒というイメージから「黒一点」、また”紅白”との対比から「白一点」ではないかなどの意見がありますが、集団が草むらに喩えられている原典”万緑叢中紅一点”から考えると、「緑一点」が最も適切ではないかと考えます。

ただ、何れにしても一般的な言い方には成り得ないし、後付けで作られた言葉でしかないのですが。

 

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女性を評した男性目線の言葉が圧倒的に多いのは、かつての男社会が理由と言ってほぼ間違いないでしょう。

「紅一点」という表現が人口に膾炙しているのに対し、その反対の言葉が最近になって後付けで生まれるというのも、そのような状況がほぼ起こり得なかったからでしょうね。

 

以上、美を讃える言い回し(その2)でした。

今後ともよろしくお願いします。