10年ほど前、探偵ナイトスクープで「ことわざバトルに勝ちたい」という依頼があった回を思い出しました。
ことわざバトルとは、自分の知っていることわざを交互に言い合い、言えなくなったほうが負けという単純なもの。そのことわざバトルがものすごく強くチャンピオンと呼ばれている友達(同じ中学生)がいて、それに勝ちたいがどうすればいいでしょうというのが依頼でした。
探偵は、鬼から始まることわざが多いことに目をつけ、その”鬼シリーズ”を覚え抜くという作戦に出ます。
本戦当日、番組の力により大層な会場で行われたことわざバトル。依頼者の”鬼シリーズ”が炸裂したものの、結果は敗退。ただ依頼者は、挑戦相手のチャンピオンになかなかやるなと言わしめるほどの健闘をしました。
…記憶頼りですが、そんな内容だったと思います。
その時に登場した鬼シリーズを思い出すことはできませんが、中には普段聞かないようなマイナーなものも多くあったという記憶があります。
来年の事を言えば鬼が笑うと言いますが、過去を振り返ることで笑いものになることは無いのでしょうか。
今日は「鬼」から始まることわざを紹介。
目次
鬼も十八番茶も出花(おにもじゅうはちばんちゃもでばな)
どんなものにも盛りの時があるということ。
醜い鬼でも年頃になるとそれなりに美しくなり、安い番茶も淹れたばかりなら香りがよいことから。
薊の花も一盛りという言い方もある。
鬼瓦にも化粧(おにがわらにもけしょう)
器量が悪くとも化粧をすれば見目好くはなるということ。
同じく「鬼」から始まる関連のことわざを紹介。鬼瓦とは、瓦屋根の端に魔除けとして設置される装飾。とても怖い。
特に、北向きの鬼瓦は凄まじいしかめ面をしている。
つまらぬ者でも、着飾れば立派に見えてしまうという馬子にも衣裳と同義。
鬼に金棒(おににかなぼう)
もともと強いものにさらに強さが加わることのたとえ。
みんな知ってる。それゆえに「○○(人とか動物)に××(武器など)」みたく、現代風にアレンジされたものが無数に生み出されているが、これ以上にしっくりくる言い回しが他に無いのがすごいところ。
・虎に翼(とらにつばさ) ・獅子に鰭(ししにひれ)
意味は上に同じ。
鬼に瘤を取られる(おににこぶをとられる)
損害を受けたようで実は利益を被ったことのたとえ。
『宇治拾遺物語』に収録されている、”こぶとり爺さん”の話こと『鬼に瘤取らるる事』が元になったことわざ。
善い方の爺さんは、翌日の宴会にも出席させるための約束手形として鬼に瘤を取られてしまいますが、本人にとっては好都合でした。悪い方の爺さんはそれを羨み代わりに宴会へ出ますが、お粗末な歌や踊りを披露してしまいます。それを見た鬼は呆れて瘤を返してしまいます。
鬼の認識では瘤は”爺さんの大切なもの”でしたが、悪い方の爺さんにとっては大きな損害を受ける形になってしまいました。
『鬼に瘤取らるる事』では ”物羨みはせまじきことなりとか” (=むやみに人を羨むことはいけないんだなあ)と、羨望を戒める一文で締めくくられています。
これとは全く反対の意味で、”鬼に瘤を返される”ということわざがあっても面白そうです。
鬼の霍乱(おにのかくらん)
丈夫な人が珍しく体調を崩すことのたとえ。
”霍乱”とは、今でいう熱中症のような症状全般のこと。他にも食あたりのこともいうようです。
鬼とはいっても、醜いもの・おそろしいもののたとえではなく、頑強な人のこと。
”鬼も十八番茶も出花”の「鬼」ではなく、”鬼に金棒”の「鬼」であることに注意されたい。
鬼千匹(おにせんびき)
小姑のこと。
「小姑は鬼千匹にあたる」が元のことわざの形。嫁にとって小姑は鬼千匹に比肩するほどの厄介者であるということ。
小姑(こじゅうと・こじゅうとめ)は夫または妻の姉妹のことだが、ここでは夫の姉妹のことを表す。
今でこそ価値観は変わってきているものの、「嫁ぐ」という認識があった昔は、まだ家に残っている女性は”未婚の売れ残り”というレッテル張りがされていました。そのため、嫁として入ってくる”勝ち組”の女性は小姑にとって嫉妬や嫌がらせの対象となるわけです。
これに加えて姑も敵に回り、また場合によっては舅や小舅ともうまく行かない状況で夫が味方になってくれないとなると、妻は孤軍奮闘を強いられます。
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”鬼シリーズ”いかがでしたでしょうか。
探偵ナイトスクープのことわざバトルでは、他にも「骨折り損の草臥れ儲け」や「十で神童、十五で才子、二十すぎれば只の人」など、わりと深みのあることわざが飛び交っていました。
特に捻りもないルールでしたが、それを機に国語に興味を持ってもらえたらいいなと思いながらテレビを見ていたような気がします。
それでは、さようなら。