日本語仙人の難しい日本語

漢字の読み書き、常套句、ことわざや格言、間違えやすい言葉―。中・上級レベルの日本語を紹介。

「断腸の思い」とは

「志半ばで職を去ることは断腸の思いであります。」

辞任を表明した安倍首相の発言の一部ですが、”潰瘍性大腸炎”という大腸の持病を抱えておられるそうです。

 渾身のブラックジョークなのかと思いましたよ。

そのように台本で書いてあったのか、将又(はたまた)ご自身の言葉なのかは分かりませんが…。

 

それにしても「断腸」って強烈な字面ですよね。

それでいて故事成語のわりには人口に膾炙していて、大袈裟な文脈で頻繁に使われることが多いんですよね。

 

・・・

今日は「断腸の思い」という言葉を解説します。

 

~目次~

 「断腸の思い」の意味

腸(はらわた)が千切れるほどに辛くて悲しい思いをすること。

はらわたが千切れるほどにとありますが、身体的痛みではなくつらい・悲しいなどの心の痛みを表現する時に使われます。

母猿断腸(ぼえんだんちょう)」とも。

 

「断腸の思い」の由来・語源

出典は『世説新語(せせつしんご)

 晋(しん)の武将、桓温(かんおん)の従者が、三峡(さんきょう)を渡った時、子猿を捕まえて船に乗せると、その母猿がかなしげに鳴きながら百里余りも岸を走って追ってきた。やがて絶命してしまったその母猿の腹を割いてみると、腸がずたずたに千切れていた。

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…余りにひどい仕打ちですね。子を誘拐されて百里を追った挙句、絶命。それでいて腹まで裂かれるんですから。

当然、子猿を誘拐した人物(桓温の従者)は顰蹙を買って役職を罷免されたと書籍の中では書かれています。

 

”三峡”は長江流域のあの地域ですね。例の貯水施設が今大変なことになってるあそこです…。

 

まとめ

断腸とは、腸(はらわた)が千切れるほどに辛く悲しい思いをすること。

身体的痛みではなく心の痛みを表す。

故事では、”断腸”したのは人ではなく、子を人間に捕られた母猿。

母猿断腸(ぼえんだんちょう)ともいう。

 

以上、それでは、さようなら。